地底たる謎の研究室

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脳は計算する、そして、脳を計算する



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:脳は計算する、そして、脳を計算する
報告者:ダレナン

 脳は21世紀最大の謎とされ、それを解き明かす先には、「人はどこから来て、どこに行くのか?」(この記事)という人類史上の永遠の命題を知りたいという、人間の本質に迫る目的に他ならない。そのため、哲学や神経科学という学問も成立し、あらゆるアプローチで、その本質に迫ろうと人類は努力してきた。しかしながら、先の命題の解は未だに見つからない。その一方で、永遠の命題に対する解は未だに見つからないものの、新たなアプローチで脳の謎に挑む試みもなされている。それが、計算論的アプローチである。
 計算論的アプローチは、デビット・マー氏による名著「ビジョン」1)に端を発する。デビット・マー氏は、マサチューセッツ工科大学において人工知能の研究に邁進した研究者であるが、1980年に55歳という若さで亡くなった。彼は視覚を中心として、計算論的アプローチを進めたが、これを脳全体までに拡大し、脳の計算論的アプローチを世界的に飛躍させた研究者が、デビット・マー氏の後にいる。実は日本人の研究者で、ATR脳情報研究所の所長でもある川人光男氏2)がその人である。その道では世界的に著名な方なので、テレビなどでも拝見した人もいるであろう。彼の著書である「脳の計算理論」3)は、ある意味、この計算論的アプローチ研究のバイブルともなっている。
 脳は情報処理装置でもあり、現在の人工知能の技術の根底には、脳の機構を応用していることがほとんどである。そのため、脳はどのようにして計算しているか、を探ることは、脳の情報処理過程の謎を解く最大の近道でもある。その情報処理過程を理解する上で必要となる3つの水準がある。それを図に示す。

fig

図 情報処理過程を理解する3つの水準1)

これを分かりやすく説明すると、はるか昔に書かれた本を研究することを例とする3)。石板か、パピルスか…、インクの材料、ページ数などを調べる研究が、ハードウェアのレベルとなる。ヘブライ語か、ギリシャ語か…、文字の構成は何かなどを調べる研究が、表現とアルゴリズムのレベルとなる。その本の内容を解き明かす研究が、計算理論のレベルとなる。このことから、脳的なハードウェアができたとしても、そこには表現やアルゴリズムがないと不完全であり、表現やアルゴリズムがあっても、計算理論としての筋道がなければ、脳の情報処理過程が完全に理解できたとは言えない。すなわち、計算するような脳を実現する、ためには、脳の計算理論を解き明かさないと不可能であることが分かる。しかしながら、脳の計算理論を探れば探るほど、今度は、その計算を生み出す脳の意識の所在が分からない4)。はたして人工知能はやがて意識を持つのであろうか。

1) マー, デビット: ビジョン. 産業図書. 1987.
2) http://www.cns.atr.jp/~kawato/Japanese.html (閲覧2015.12.17)
3) 川人光男: 脳の計算理論. 産業図書. 1996.
4) マッスィミーニ, マルチェッロ. トノーニ, ジュリオ: 意識はいつ生まれるのか. 亜紀書房. 2015.

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