地底たる謎の研究室

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満たされぬ愛のレクイエム -18歳でわたしは年老いた-



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:満たされぬ愛のレクイエム -18歳でわたしは年老いた-
報告者:ダレナン

 本記事は、この記事の続きです。

 18歳は大人になる成長への橋渡しをする多感な年齢であり、この時に受けた影響は、生涯持ち越される。
 「18歳でわたしは年老いた」とはマルグリッド・デュラスの代表作の一つである「愛人 ラマン」の一節であるが、デュラスの小説の中でも最も有名な一節にもなろう。この小説はデュラスの自伝的作品とも言われ、1992年にジャン=ジャック・アノー監督によって同名(L’Amant)の映画化がなされたことから、この映画を通じてデュラスに触れた人も多いに違いない。筆者もその一人である。ただし、映画は主人公のフランス人の”わたし”と華僑資本家の中国人青年との関係を中心に取り巻き、デュラス作品の背後にある母との関係が十分に描かれていなかった。このことから、デュラス本人はこの映画を納得はしていなかったようである1)。
 小説「愛人 ラマン」の端的なあらすじは、この記事でも紹介したエレーヌ・グルナック氏により語ってもらうと、「非常に貧しいフランス人の少女と大金持ちの中国人の物語。二つの大戦の間の、フランス植民地下のヴェトナムでのできごとである。当時、たとえ裕福でも中国人は白人の娘と結婚することはなかった。そのために悲しい結末を迎える物語。」となる。これからも分かるように、今の時代背景では考えられない状況下での物語である。さらに、そこに先に示したように、主人公の”わたし”と母との間柄もある。”わたし”の母は、インドシナで現地人向けの学校の教師をしていたが、定年となる年令を過ぎたのちもこれを続けるべく関係する諸機関への働きかけに奔走していた3), 4)。しかしながら、それも徒労に終わり、挙句の果てに20年間の貯蓄を注ぎ込んだ耕作地は、半年以上海につかるという耕作不能な土地であった3), 4)。そのことから”わたし”の母は、ある種の狂気に入り込み、精神的にも追い込まれる5)。その様子は、デュラスの別の小説「太平洋の防波堤」としても作品化されている。この複雑な環境下から、デュラスが小説「愛人 ラマン」で記述するのは、単なる思春期における性的な欲望だけではなく、自分のおかれた境遇から外に出る、という意味をもつ欲望でもあった6)。言い換えれば、永遠に満たされぬ愛への希求ともいえるのかもしれない。そのことから、愛してはいないはずの中国人青年との別れによって、また、親しかった下の兄との死別によって、孤独という愛の本質を知る。それは、まさに精神のレクイエムとなる。真実の愛が生き続けるためには、別離と死によってのみなされる2)。それが、デュラスの場合は、18歳にして起こりえた。
 マルグリッド・デュラスにとって、書くということこそ唯一の願望であり、自分を生かし続けるためには、万難を排して戦う情熱でもあったことを、何度も強調している2)。そして、自分自身の造物主を、書くことによって創り出す2)。これによって、自叙伝を超えて純然たるフィクションの中へ、小説、つまり真実の中へと読者を引き入れる2)。レクイエムを超えて生み出された主こそ、デュラスの小説家としての本領といえよう。




1) 出典不明
2) http://helenegrnac.blogspot.com/2011/01/blog-post_19.html (閲覧2018.6.10)
3) 芦川智一: マルグリット・デュラスと植民地 : 『愛人』と『フランス植民帝国』のあいだ. Azur 6: 129-142, 2005.
4) 松田孝江: マルグリット・デュラス -家族の神話の虚構と現実-. 大妻女子大学紀要 47: 17-26, 2015.
5) 河野美奈子: マルグリッド・デュラスと仏領インドシナ -自伝的作品における仏領インドシナ表象とその書き換え. 立教大学博士論文. 2016.
6) 西谷修: マルグリット・デュラスの二つの名. ユリイカ 7: 218-228,1985.

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