地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

ノーチラス号の冒険譚 -オウムガイの浮力調節について-



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:ノーチラス号の冒険譚 -オウムガイの浮力調節について-
報告者:ダレナン

 本記事は、この記事の続きです。

 ここでの記事にも示したように、オウムガイは南太平洋~オーストラリア近海の水深100~600mの海中に生息している。そのため、そこに潜ると、オウムガイと出合う確率も高い。このたび、許可を得て、ダイビングの末に、そこの近海にて偶然にも一体のオウムガイにめぐり合うことができた。そこで、筆者は、そのオウムガイに個体識別として命名した。それが”号”である。オウムガイは、学名がNautilus pompiliusとなることから、オウムガイ属として総称すると、Nautilus(ノーチラス)ともできる1)。そのことから、めぐり合えたオウムガイは、通称:Nautilus(ノーチラス)号といえよう。という、やや冗談めいた話題になるが、そのオウムガイのノーチラス号はどのように泳ぎ、生息しているのかについてかなり気になる。なぜなら、SFの父とも呼ばれるフランスの作家、ジュール・ガブリエル・ヴェルヌが記述した小説「海底二万里」に登場するネモ船長という謎の人物によって極秘裏に建造された新鋭潜水艦の名が、ノーチラス(オウムガイ)号、だからである2), 3)。ここ連日、オウムガイさまさまによって筆者にやり貝といき貝を引き出されたゆえに、ノーチラス号とくれば、その話題も弾む。そこで、ここでは、その近海で出合えたと想定するオウムガイ、通称:ノーチラス号の冒険譚について、浮力構造から巡りたい。
 オウムガイの浮力調節には、ここでの記事のオウムガイの構造にも示したように、殻にある隔壁(かくへき)と体管(および連室細管)が重要な役割を担う。以後、構造に関する記述は、その記事の図と照らし合わせて読み進めていただければ幸いである。文献1)によると、現在すでに、オウムガイは、気室(図では部屋に相当: 隔壁で囲まれた内側)中のガスの体積を直接変化させるのではなく、カメラル液という特別な液の出し入れすることによって全体の密度を調節していることが判明している。浮力を増加させるには、能動輸送によって上皮細胞内に濃度勾配をつくりだし、浸透圧によってカメラル液を排出する。そして、気室内の圧力が下がるとカメラル液に溶けていた分子が気化してガスが発生することで、浮力となる。一方、浮力を低下させる場合は、その逆で、浸透圧のポンプによって液体を出し入れして、それを調節する。その調節に働くのが、各気質を繋ぐ体管(および連室細管)である1)。したがって、オウムガイの気室は、潜水艦のメンタンク(浮力タンク)とも似ている4)。しかしながら、気室のガス化は、実際には何カ月もかけて行われることから4)、潜水艦のメンタンク(浮力タンク)機構とは異なる。さらに、気室の浮力を利用して活発に遊泳できるのは、若い個体だけであることが現在判明している4)。しかしながら、この気室の浮力調節によって、オウムガイはジェット推進(頭部下側(腹側)の外套膜が筒状に巻いた漏斗より、飲み込んだ海水を勢いよく噴出する5))を効率的に行うとともに、そのジェット推進によって200~300mもの深海から急速に浮上させたり、常に殻を上向きにして、姿勢を安定させることができる。



1) 佐々木猛智: 貝類学. 東京大学出版. 2010.
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/ジュール・ヴェルヌ (閲覧2019.2.27)
3) https://ja.wikipedia.org/wiki/海底二万里 (閲覧2019.2.27)
4) 福田芳生: 新・私の古生物誌(4) アンモナイトの進化古生物学(その2)。THE CHEMICAL TIMES 208: 9-14, 2008.
5) 福田芳生: 新・私の古生物誌(4) アンモナイトの進化古生物学(その1)。THE CHEMICAL TIMES 207: 17-21, 2008.

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