題名:スープの中の結晶
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
一歩ずつ無垢に歩み寄り、一歩ずつそれから遠ざかる。結果的には進んでいない、その±0な状況は、苛立ちを隠せなかった。でも、おやっさんのラーメン作りには、何かある。それは、決して、僕には近づくことができない無垢な領域であった。
「どうや。ガエールくん。仕込みはこうして、一つ一つ丁寧にやるんやで。そうすると、素材の一つ一つから不思議な輝きが見えるんや。その時、いっつもこう思うんや。これが、嫁が大好きやったラーメンの輝きやと。そうして、それを丹念に、丹念に、漉すことでな、おっちゃんの猫ラーメンのスープが完成するんや。だからな、嫁には感謝しとるねん。この輝きを見出せるようになったんは、嫁のおかげやで」
仕込みの時(この物語)、こんな風に仕込んでいるとはなんとなく予想がついたものの、おやっさんの嫁さんへの愛(この物語)は、スープの中の結晶(図)として輝いている。そんなスープ、僕には作れっこない。どんなにあがいても、それは作れっこない。無理だ。
「おやようございます。あれっ、ガエールくん、今日は早いのね」
図 スープの中の結晶1)
タンちゃんが店に来た。
タンちゃん:「あっ、もしかして、おじさんの仕込みマスターしているの?」
僕:「そっそうなんだ…けど…」
そうはいいつつも、決してマスターできない無垢な領域があることが分かった。少しでもおやっさんに近づきたい。おやっさんから、ラーメンの極意を学びたい。でも、無理だ。絶対に無理だ。おやっさんの背景にある嫁さんへの愛がとてつもない大きさに思えた。
タンちゃん:「おじさん、私もいいかしら」
「ええよ、今、スープが完成するとこやけんどな。二人ともええ心掛けやのー。おっちゃん、うれしいで」
1) https://season-freeillust.com/winter/winter33.html (閲覧2019.12.26)
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