地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

平和な秩序が崩れ



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:平和な秩序が崩れ
報告者:ダレナン

 本物語は、この物語の続きです。

 真っ白なベッドで固定されていた僕は、身動きが取れなかった。いや取れないというよりもあまりにもそのフィット感に驚いていた。まるで、空中に浮かんでいるような、そんな気分がした。地球の重力の1/6であるこの月の重力よりも、はるかに感じられない重力の世界。でも、無重力とは異なって、体は宙に浮かんでいるのに対して、その内部、内臓はしっかりと固定されている。無重力ならば、体も内臓も浮かんでいる。それとはやはり異なっている。頭の中も固定されている。それは今まさに記憶を着実に引き出そうかとしているような感じだ。目を閉じながら、キーコの事を思い出し始めていると、ダオッコ博士は、

「ツキオくん、どう? このベッド、別途でしょー」

という冗談が聞こえた。そこで、僕は返答した。

「マ・イケルでしょー」

 マ・イケル・冗談ね…。ダオッコ博士が、若干くすっと笑った気がした。その後、ダオッコ博士は軽快に指をパチンと鳴らした。すると、上から棒状の機械がくねくねと降りてきた。そうしてその棒が僕の額にぺったっと張り付くと、触手を伸ばすかのように棒の先が四方に分かれ、僕の頭が触手で覆われた。僕が宿主なら、その触手は寄生するかのように頭の上でうねうねしている。さらに、触手の数本が鼻の中からに入っているようにも思えたが、触手自体が心地よい感じで、僕自身も固定されているから、まったくその様子が見えず、違和感もなかった。もしかして、もはや全身がその触手で覆われているのだろうか…。
 頭の中がきらきらと輝き始めていた。実際は、瞼の裏かもしれないが、頭の中がきらきらとしているように思える。そうして、僕は再び静かに目を閉じてキーコとの想い出に集中した。

 僕は今、じゃがいも工場に働いている。第1世代からの実験で、月でも簡単に栽培できるのがじゃがいもだと分かり、じゃがいもは今や月の世界で最も多くの栽培が行われている植物、食べ物だった。第3世代になってもその栽培の手軽さは、食べ物を安定して供給できる安心感が存在していた。たぶんMoon Townの人口の1/3は、なんやかんやとじゃがいもの栽培に従事している人が多いだろう。だから、僕も物心のついた時からじゃがいもの栽培に関わっていた。
 第2世代から第3世代に至る間、Moon Townには一度危機的な食糧難があった。この危機的状況に対して地球への応援を頼むも、Moon Town自体が新新時代のノアの箱舟という計画だったこともあり、わずかばかりの食糧が輸送ロケットで送られただけであった。その裏にはフランコ・ハバド氏の陰謀もあったのかもしれない。ただ、その危機的状況は、やがて大いなるじゃがいも収穫祭で難を逃れることができた。しかし、その一方で、その食糧難によって、ほぼ親族、内輪といえるべくMoon Townにあった平和な秩序が崩れつつあった。規模は小さいものの、地球でいう犯罪に近い出来事がMoon Townで急に増えたのだった。

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