地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

最期の願い



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:最期の願い
報告者:ダレナン

 本物語は、この物語の続きです。

 ジュニ・ヴェルヌーブ氏の予想を待たずして、フランコ・ハバド氏は「地球の輩からテキトーに見繕った子種」の会話から、その子種の実体を見届けることなく、5日後に息を引きとった。いわば子種の人物、Moon Townに送るべきその子種について、結局のところ最終の判決を知るべくもなく、彼はこの世を去ったことになる。
 そのハバド氏の死去からすぐに、スペースZ社バージョン5の実権は、誰もが異論できないままにヴェルヌーブ氏が受け継ぐことなった。結果的には誰もが賛同した形での実権、誰もが現在のヴェルヌーブ氏の手腕を認めざるをおえなかったともいえる実権の掌握でもあった。
 だから、スペースZ社バージョン5の社員は、それが、後のデューン計画で、例え興行的にも失敗しようとも、その映像化には彼以外、誰もできない、彼しかいない、彼にしてもらわなければ…、そういう思いで溢れていた。誰もが、「失敗しようとも、それは彼による失敗ではない。その映像化は、やがてカルトになる」。皆、そう信じていた。
 そう認めたい。そう認めざるを得ない感性が、過去のヴェルヌーブ氏の業績にはほとばしっていたからだ。だからこそ、最終の映像化の感性が、未完成でも、彼の実感性には未完成はないはず、そう思える・そう思いたい人物でもあった。
 フランコ・ハバド氏の意志を受け継ぐ、映像表現のジュニ・ヴェルヌーブ氏。予告でもお腹いっぱいになる。公開され、「失敗である」と批評家がいえども、批評家にいろいろといわれた時点で成功だろう。
 注目を浴びておる。結局のところ、批判する、その批評家が、お前が何か映像化したか…。彼らには、そう、批判するAnalyzerとしての立場でしかないじゃないの。だから、あなたはCreatorではないだろう…。いくら批判しても、あなたには、批判する才能以外、何もない。何もない。それは、実にむなしい才能ですよね。The World of Creator。Creator側のヴェルヌーブ氏ならば、確実にそう反論できる。
 しかし、彼の静謐な性格からすれば、冷静にこれまでのことを受け止めつつ、スペースZ社バージョン5の組織の拡張を願うよりも、今は、むしろMoon Townのその後の動向を見守る立場にいた。

ヴェルヌーブ氏:「Moon Townに輸送できるであろう子種は、検体①:低程度での研究員一人のもの、検体②:WDと呼称されている被検者のもの、だけだろう…。
しかし、検体①に関してはあまり期待できない。なぜなら、月への輸送の間に放射線によってその遺伝的要素が欠落する可能性が高い。
検体②。これほどのレベルならば、その放射線の影響に耐えうるであろうか…。
ただ、その遺伝子は、過去に地球上でも軽犯罪歴がある被検者のもの、その子種でもある。
Moon Townに送ってはいけない、送ってはあかんのだろうか…」

 そう思うヴェルヌーブ氏であったものの、ハバド氏の最期の願いを実現するべく、彼は意を決して、検体①と②の両方を搭載して、ロケットを打ち上げた。

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