地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

ぼきゅがやったんだ



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:ぼきゅがやったんだ
報告者:ダレナン

 本物語は、この物語の続きです。

 自宅近くの駅に着いた。相変わらず僕の冷汗は止まらなかった。他人から見ると、僕の顔面はかなり蒼白していたに違いなかっただろう。まるで、今すぐにでも倒れる病人のように。
 駅を出てふらふらと路地を歩きながら、いつもの3倍の時間をかけて家まで向かった。家の前までくると、自分の家が真っ暗だった。その暗闇の向こうから、その雰囲気はさっきの地下鉄のトンネルの奥底を思わせた。何かがいる。家には何かがいる。まるで僕の家の中ではないようだった。
 玄関の扉を開け、玄関内に立つと真っ暗のまま、しーんとした音が耳をつんざいた。何もない時もしーんという音が響いている。その時、僕は感じた。ここには、家には、妻がいない。
「シズコ。ただいま」
 何も聞こえない。応答がない。リビングに向かい、電気をつけた。そこにもいない。妻の部屋に入り、電気をつけた。そこにはもぬけの殻のような布団の山があった。でも、その布団の中には妻が抜け出た後以外は、何もなかった。痕跡はあっても、シズコはいない。
 急いで僕は、妻の実家に電話した。「あらっ、ダリオさん。お久しぶりね。元気していた。…、そうね、シズコはここには来てないわよ」と即答された。次に、とりあえず妻の親しい友人にも電話してみた。「いや、ここにはいないけれども。シズコに何かあったの?」と返事。「いや、何もないです。すみません」と電話を切った。シズコがいない。どこかのお店に行ったのだろうか…。でも、思いつくところはなかった。少なくとも、僕に内緒で勝手にどこかにいく妻ではなかった。
(あなたが悪いのよ)
 頭の中の妻がささやいた。
(あなたが悪いのよ)
 ギィーっと音がした。家の奥のドアが自然に、いや不自然に開いた。その奥には何かが潜んでいた。小さな黄色い物体。よく見ると、それはヒヨコだった。暗闇の中でヒヨコがポツンと立っていた。
「しじゅこしゃんは、うたたれたんだ。じゅうだひゃんに」
「じゅうだひゃんに…」
「ばきゅんと、うたたれたんだ。そしゅて、しょれは、ぼきゅがやったんだ」
「やった…」
「しょう。しじゅこしゃんは、ぼきゅが、ばきゅんと、ころしゅたんだ」
 そして、その言葉を言い残すと、ヒヨコは僕の視界から消えた。
「シズコが銃に打たれた。殺された。ヒヨコに…」
 何度も大声でシズコの名前を呼んだ。全然応答がなかった。
 シズコは殺されたんだ。あのヒヨコに殺されたんだ。
 ぼんやりと昨晩見た夢を再び思い出した。そうだ。その夢のヒヨコの名前は確か、くっくどぅーどるどぅだった。その時、さっき部屋の奥で立っていた「シズコを殺した」というヒヨコにあった名札も瞼に浮かんできた。浮かんだイメージには、” くっくどぅーどるどぅ”と書かれてあった。

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