地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

僕が殺してしまったんじゃないか



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:僕が殺してしまったんじゃないか
報告者:ダレナン

 本物語は、この物語の続きです。

 眠ったか眠らなかったか分からないうちに、朝になった。窓から日が指し、時計を見るとすでに6時になっていた。
 もしかして帰ってきているかもしれない、起きてからすぐにシズコの部屋に向かった。でも、そこにあったのは、昨日と同じようにもぬけのからの布団だった。シズコの名前を呼んでみた。何も返事がなかった。僕は嫌な予感がした。きっとクミちゃんもいない。
 気分を整えるために、僕はいつもよりも丁寧に歯を磨き、丁寧に顔を洗って、家を出た。
 地下鉄はいつもと同じように、同じ時間にちゃんと到着した。乗る乗客もいつもと同じような顔ぶれがそこにはあった。いつもと変わらない日常。でも、明らかに何かが違っていた。シズコが消えただけでなく、僕の周りの空気が希薄なのだ。こめかみあたりもズキンとして、体全体がオブラートに包まれている。僕だけが違う世界にいるんじゃないか。そう錯覚した。
 会社に着くと、今朝の悪い予感が的中した。クミちゃんがいない。受付には、昨日と同じ子が座っていた。「タケヒサさん、おはようございます」。彼女に聞いてみると、クミちゃんは今日も風邪で休んでいるとのことだった。そこで、クミちゃんの連絡先を教えてもらえないだろうかと彼女に相談した。しかし、「わたしもよく知らないの」という返事だった。

だきゃら、ぼきゅが、ころしゅたんだ。

「貴様。それでも軍人か」

ころしゅて、ぼきゅは、ぐんじんになっちゃんだ。

 社内のエレベータ内の鏡で自分の写る姿を見ると、ヒヨコに見えた。
「僕はシズコを殺したんだ」そうつぶやいた。
 “くっくどぅーどるどぅ”は僕自身なのか。あの受付の子は、クミちゃんは風邪だと言っていた。本当にクミちゃんは風邪なんだろうか。風邪で休んでいるだけなんだろうか。クミちゃんも僕が殺してしまったんじゃないか、そう思えた。
 営業課の5Fに着き、周りを見渡すと、社員すべてがニワトリに見えた。皆の名札にはこけっこーと書かれてあった。誰もが目をギラつかさせて行進していた。ふとめまいがしてふらっとした。
 気づくと僕はソファに寝かされていた。そこに上司のサメジマさんがいた。
「随分と疲れているようだな。ここ最近のオ・マ・エは…。この前も失態するし、無断で3日間も欠勤したしな。タケヒサ、今日はもう帰って休め。お前の担当はこの先、俺が何とかするから…」
 僕は頷いた。ここは素直にサメジマさんに甘えよう。「ありがとうございます」と伝えると、サメジマさんは「じゃあな」と言い残して、デスクに戻った。

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