地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

血が滴り落ち



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:血が滴り落ち
報告者:ダレナン

 本物語は、この物語の続きです。

 一度でもそこに雲が覆いかぶさると、空は見えなくなる。太陽の光も届かない。でも、それが一度だけでなく普通になると、空を仰ぐことはできない。いわゆるそれが当たり前となると、あたり前田のクラッカー1)とナルト。なんだか意味はよくわからないけど、学校の先生や年配の人が「あたりまえ」と同時に繰り出してくる必殺ダジャレコンビネーションでもあったのだ、それは2)。もはや逃れられない記憶への刻印。僕はそうして、それと同じくして、ゲツベさんからの”主”→”従”の関係が、あたり前田のクラッカーとしてごく自然に勤務先にリトルを連れて行く。どこか心の中でそれは良くないことと拒否していても、だった。



図1)

 勤務先でのリトルは、トラーを中心とするエリート集団のネコの一団に取り込まれていた。その時のリトルの興奮度合いは異常だった。リトルの様子からすれば、彼女はすでにその一団に”洗脳”されている。
 その”洗脳”度合いは、言い換えるならば、何だかスマホ1、スマホ2、タブレット1、タブレット2、スマウ1、スマウ2のすべてにわずかに時間差で、それでいて、やや時間差があれども同時に通知がくる様として表すこともできた。僕は、メールでもLINEでも、すべての通知がほぼ、ほぼ、ほおぼうにブーブーとうなり声(すなわち、音ではなく振動で通知される)をあげると、その声を見過ごすわけにはいかなかった。
 その状態は、異常だ、で、以上だ。重要でもそうでなくとも、見なければいけない異常で、見ると以下な通知であっても、それが、重要な以上な連絡だったら、僕はすぐさま反応しなければならない。それが、朝であろうとも、昼であろうとも、夜であろうとも、あるいは真夜中であろうともだ。
 本音では、もううんざりだった。うんざりでも、それにレスポンスしなければならない。それが組織としての一団での決まりだからだ。「お前は、組織を分かってるのか?」。嫌しらない。いや知らない。知りたくもない。でも結局は、僕もリトルと同じく一団としてゲツベ・組織から”洗脳”されている。そうなんだろう…。

 今日の勤務を終え、リトルを呼んだ。でも、一向に鳴き声が聞こえない。僕は恐る恐るネコ舎に向かい、リトルの安否を確認した。そこに、目を覆うような出来事があった。リトルは横倒しになり、彼女の胸から腹が引き裂かれ、普通は表からは見えないはずの小さな心臓が鼓動しているのが見えた。あたりに赤い液体が滴り、リトルはぜいぜいと呼吸していた。その傍らで、ボス格のネコのトラーが口の周りをまるでザクロを食べたかのように真っ赤に染め、恍惚の笑みを浮かべている。どういうことなんだ…? これは?
 僕が放心しているのを見ると、ゲツベさんがすっと僕に近づいてきた。そしてふふっと笑いを帯びつつ、「どうやらお宅のリトルさん、お腹周りをなんだか怪我したようだね…」と言った。「怪我…ですか、これは?」、「ああ、これは怪我だね」と、彼はいとも冷静に僕に告げた。「怪我? 本当にそうなのですか?」、「ああ、そうだね…。見ればわかるだろ」と告げた。僕はリトルに駆け寄り、持ち上げた。リトルの胸腹部から血が滴り落ちた。「リトル…」と呼びかけると、か細いけれども。彼女は「にゃおーん」と答えてくれた。



1) https://www.amazon.co.jp/前田クラッカー-2732-前田製菓-前田のクラッカー-110g×20袋/dp/B00AQSPWHM/ (閲覧2021.4.4)
1) https://rocketnews24.com/2014/11/05/505732/ (閲覧2021.4.4)

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