題名:人は何者かに変身する、ことはできるのか?
報告者:トシ
本記事は、この記事の続きです。
先の記事にて、外面のみの変化となった出来そこないのコピーロボットに関する報告と、それによる答えに関して述べた。そして、そこから、人の外面と内面の変化に伴う問題を提起した。ここでは、それをコピーロボット以外から、その答えを求めてみたい。
人が何者かに変身するのは、今の時代に始まったことではない。変身譚として古から多くの物語があり、そこでは、同性や異性、場合によっては動物や植物などの人間以外のものに変身させることがある1)。人間以外のものとして有名なのは、「ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな毒虫に変わってしまっているのに気がついた。」であり、これはフランツ・カフカによる小説「変身」の冒頭であるが、この変身とて実際には起こり得ることはない。あくまでもフランツ・カフカの創造である。そのため、この「変身」での解釈も難しく、全てのカフカ作品の特徴として、正しい解釈が存在しないことも指摘されている2)。ただし、どうあがこうとも、人は、現実世界では、「虫」に変身できない。ちなみに、カフカの「変身」の作中の描写から、「虫」の大きさの意味に関しても検討されている。それによれば、「虫」の大小は、家族との繋がりの、あるいは社会との結びつきの強弱に一致していると述べ、家族と社会への執着する意識の強弱が「虫」の体の大きさを決定しているとされている3)。このことから、人が現実的に変身できるのは、家族と社会への執着する意識の強弱によって最も起こり得るとも言えようか。
家族と社会への執着する意識の強弱によって変身できるとすれば、その意識はやはり内面からに基づく。
ロシアの有名な人形に、マトリョーシカ人形がある。マトリョーシカ人形を図に示す。これは7体のものであるが、その他にも5体、あるいは、25体のものもあるが、基本的には大小に変わりなく、外面は似ている。外面の異なる人形タイプもあるが、オーソドックスな人形はほぼ似ている。これから、内面に進めば進むほど、外面は似つつも、内面は変身できることをマトリョーシカ人形は意味している。
図 マトリョーシカ人形4)
カリフォルニア工科大学の理論物理学者である大栗博司博士によれば、宇宙はマトリョーシカ人形であるという5)。細かく分解し、最後には輪ゴムが出る5)。これが超弦理論の分かりやすい説明となるが、これと同じくして、外面は似つつも、内面なる宇宙は入れ子構造のように、人は何者かに変身できる。ただし、入れ子の不安定さから偏心してしまうと、間違った方向に変心してしまうこともあり得る。その意味では変身は正しく行わなければなるまい。偏心の変心では、人へのメールの返信にも、その入れ子の不安定さが醸し出される。
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/変身譚 (閲覧2018.3.20)
2) 富山典彦: フランツ・カフカ「変身」の「虫」の変態についての一考察. 成城文藝 236: 25-12, 2016.
3) 大山一郎: フランツ・カフカの「変身」について -「虫」の大きさの考察-. 高岡法科大学紀要 10:3-23, 1999.
4) https://www.culture.ru/events/225314/koncert-matreshka (閲覧2018.3.20)
5) 日経サイエンス編集部: 挑む 大栗博司 超弦理論で世界の成り立ちを探る. 別冊日経サイエンス 186, 110-113, 2012.
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