題名:あっちの世界
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
裁判中も僕は、まったくもって緊張感は感じなかった。もぞもぞしてじっとしてはいられなかった。結局は、どんな判決であろうともなるようにしかならない。いくら審議したところで判決はすでに決まっているのだろう。はっきりしないその状況に、僕はなかばいらいらしていた。
傍らで僕の弁護人は、「百智被告には責任能力がない、事件当時、何らかの精神障害で心神喪失状態、少なくとも心神耗弱状態で、責任能力は限定的にしかありません」と告げている。
そんなのどうでもいいことだった。僕がこぶちゃんを、葬ったのは間違いない。そんなのは十分に知っている。いまさらでもない。僕が犯人だ。どんな尋問に対しても「間違いありません」と、僕は繰り返して言っているじゃないか。僕がこぶちゃんを殺したんだ。この僕がだ。
Moon Town最高裁判長:「それでは判決を言い渡す。百智被告は、Kちゃんにおける殺ラクダおよび死体遺棄をした事実には間違いなく、このMoon Townの象徴であるKちゃんを葬った。このことは、まがいもない事実であり、非常に身勝手かつ計画的な犯行であり、情状酌量の余地はない。
すなわち、本件の罪質が極めて悪質で、Kちゃんの殺害の態様が冷酷かつ残虐であること、Moon Townにおけるこの犯行の結果が誠に重大であり、社会的影響も大きいこと。犯行に及んだ動機にも酌むべきものがないことを鑑みると、百智被告には更生の余地がなく、刑事責任は極めて重大である。
死刑は人の生命を奪う究極の刑罰であり、誠にやむを得ない場合に選択が許されるが、慎重を期して検討しても、百智被告に対しては、死刑をもって臨むのが相当である。
よって、百智被告に対しては、死刑を言い渡す」(文面参考1))
僕はこの判決にいささかほっとした。そして、走馬灯のように10歳からの僕の人生を反芻した。
そこにはいつもこぶちゃんがいて、僕はいつもこぶちゃんと一緒に寝食を共にしてきた。こぶちゃんが「ンゴォォォォォォオオオオオオオオオーーッ」と鳴くたびに僕は何かがひらめていた。
輝きのある人生。
夢と希望のあふれた人生。
一生忘れることはない。
でも、もういいんだ。今の僕には、思い残すことはない。死刑でいいんだ。
僕にはすっかり何かが失われていた。
僕:「ありがとうございます」
こぶちゃんはあっちの世界に行った。僕もやっとあっちの世界に行ける。
1) https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/147/083147_hanrei.pdf (閲覧2020.10.24)
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