地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

チーン



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:チーン
報告者:ダレナン

 本物語は、この物語の続きです。

 そして、再び(もう、いい加減にベンチから立って、生しょうが入り手もみ若鶏もも竜田揚げを、はよ、わたしに頂戴よ~)と妻シズコの声が頭で響く。同時に、頭の中でブリキの太鼓をたたいているかのようにがんがんとする音も鳴り響いていた。そのちぐはぐな状況にめまいがして、僕はベンチからどうしても腰を上げることができなかった。
 目の前にはハトが何かをついばんでいる。ハトは、くるっくーと鳴いていた。その鳴き声は、ニワトリとの違いを鮮明にさせた。
 くるっくー、こけっこー、はとぽっぽ。
 鮮明なまでの両者の、両鶏の声の違いは、いつの間にか、目の前の像をこけっこーと名札のつけたニワトリの行進にすり替えていた。行進の最後列には、きょろきょろしながら、”くっくどぅーどるどぅ”も、そこに居た。たぶん、それは僕自身だった。ただ、以前とは違ってその最後列のさらに最後列に隠れて、隠れていないように、そこには”くっくどぅーどるどぅ”という名札を付けたヒヨコも同列をなしていた。そのヒヨコの首には、ブリキの太鼓がぶら下げられていた。彼それとも彼女は、がんがんがんと勢いよくそれを叩いていた。彼それとも彼女の表情にはうれしそうな笑みも溢れていた。
 一方で、こけっこーのニワトリは、以前、僕が見たイマージュのように変わらず銃を携えていた。相変わらず眼光も鋭く、それは僕に再び獣の咆哮を思い出させた。でも、くっくどぅーどるどぅなるヒヨコが携えていたのは、ブリキの太鼓。
 それは、獣になるには役立たない。
「打て、打つんだ。くっくどぅーどるどぅ」
 ニワトリのこけっこーは、ニワトリのくっくどぅーどるどぅに叫んだ。でも、ニワトリのくっくどぅーどるどぅは、相変わらずきょろきょろと挙動不審だった。今の彼には銃など打てない。僕だ。銃が打てない彼は、僕に違いない。見た目にもそれは明らかだった。その時、彼の後ろに居たヒヨコのくっくどぅーどるどぅは、ブリキの太鼓を思い切り叩き、思い切り叫んだ。
 どかどかどか…、きょぇー
 パリ――ン…
 その時、打て、と命令したニワトリのこけっこーの一羽の頭が吹っ飛んだ。
 見事なまでに、吹っ飛んだ。
 まるで、Die Blechtrommelまたはスキャナーみたいだった。これはドキュメントじゃない、フィクションなんだ。ドキュメント・スキャナーではなく、フィクション・スキャナーなんだ。
 でも待てよ。複数形にしないとまずいんじゃないのか。そうふと頭に浮かび、調べ直した。
 やっぱり複数形だ。スキャナーズ。1台だけでなく、2台、3台と続くその歴史は代々と受け継がれる。だから、複数形ズなんだ。調べにより、クローネンバーグするひと時だった。
 裁断されたこけっこーの頭は、無残にも飛び散り、シュレッダーされた。
 裁断に次ぐ、祭壇で、こけっこーは、チーンだった。

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