題名:天の貢ぎ
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
メガミ・エナイさんの呪術は続き、僕は過去とのつながりを帯びつつ、著しい過去との同期を感じられた。それは僕の魂であるその心臓をそのままぎゅっと握られ、もみほぐされているかのようでもあった。でも…。
どうやら、それは現実だった。エナイさんからの手の鼓動が伝わってくる。僕の胸元を見ると大量の赤い血が胸から滴り落ちている。僕の胸は、真っ二つに開胸されている。その開胸されている僕の胸に、エナイさんは容赦なく手を突っ込み、僕の心臓をグッと握って、何度も何度も、動悸させている。激しいまでの鼓動が感じられる。胸からはしどしどと血が滴る。僕はこのままエナイさんに心臓を思いっきり握られ、つぶされれば、僕は間違いなく死んでしまう。
それでも、エナイさんの握りは微妙に僕を鼓動させ、その動きが留まらなかった。エナイさんが握るたびに、僕の心臓は動悸して、握りに同期していた。エナイさんはその鼓動に合わせるかのように僕に質問を再開した。
「あなたに過去はありますか?」
「いえ、ありません」
「あなたに未来はありますか?」
「いえ、ありません」
「では、あなたはどこにいるのですか。過去ですか、それとも未来ですか?」
「現在です」
「その現在はどこですか?」
「ガス室内でとどまっています」
「ガス室内?」
「そうです。ビルケナウ収容所のガス室の絶望の中で、僕は佇んでいます」
「現在のあなたはガス室に居るのですね?」
「そうです。大きく僕の心臓の鼓動が耳元に聞こえます。だんだんと緩やかになって消えてゆくようです」
「それは、どういうことですか?」
「命を失うということです。同時に魂を放棄するということです」
「では、その魂は、誰に譲りますか?」
「ミチオに譲ります」
「ミチオとは?」
「僕の孫です。イサクの子です」
その後、エナイさんは僕の心臓を胸から引きちぎり、天の貢ぎとして、僕の心臓をかじった。かじった時の鮮血がエナイさんの口から零れ落ち、月も真っ赤に染まった(図)。
図 染まった月1)
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