題名:永遠の愛なんて存在しない。
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
人によって好みは異なる。僕が顔を見上げ、その存在を認識した時から、僕の中で、クミちゃんは輝きだした。それまでにも、彼女は受付にいたはずだった。でも、始めて、何かが結びついている、そう思えたのはなぜ、なんだろうか。それを実感した日以来、クミちゃんの存在は、僕にとって特別になった。“豊かでなめらか、そして温かみのある声”。どうしようもなく僕の心は震えた。
そういえば、シズコもそうだったのかもしれない。その声の音色に自然と共鳴してしまう。それは、その声は、僕にとって一種の音楽の様でもあるからかもしれない。
好きな人が、好きな人の存在が、人によって好みがあるように、好きな音楽は、その音色によって人によってかなり異なる。でも、人からの印象や、音楽からの印象は、心に根差す深いものがある。
自分にとって大事なものは、年を経ても変わらない、そういうことだろうか。それは、太古の自分の中に、どこかに結びついている。脳内の、何か、決まった、自分自身をそれで示しているのだろうか。それとも、遺伝か、学習か? そんなのは分からない。どうでもいい。だから、詳しいことは知らなし、知りたくもない。でも、決められていると感じる。それが、自分が思った以上、それが、好み。フェバリット。
かつてはシズコから得られたその決められていることが、クミちゃんでも自然と得られた。それは、僕にとっては、クミちゃんは僕には特別な存在ということを示している。だから、その日以来、クミちゃんの仕事ぶりが気になった。もう、心の中の何かが止まらなかった。何かがと言えば、何もかもだ。
シズコのことは今でも大好きだ。
それでも、日々の暮らしの中で何かが、お互いがチェンジする。そのことによって、僕は新たな心を獲得しなければ、存在意義が失われる。自分が意識しない勝手な存在意義。醜いものだ。永遠なんて存在しない。永遠の愛なんて存在しない。
病める時も、健やかなる時も、
富める時も、貧しき時も、
妻として愛し、敬い、
慈しむ事を誓いますか?
誓ったのにも関わらず、心は留まらなかった。もし、シズコとの間に何かがあれば、せき止められたダムが決壊するかの如く、僕は留まれなくなる。シズコに対して感じた特別な想いを、今、クミちゃんに感じた。
…。シズコとの大喧嘩。そして仕事のストレスから、僕はクミちゃんに助けを求めた。本当は、もうどうでもいい。僕は消えたかった。この世から消えたかったはずなのに。クミちゃんからOKがあっても、なくても、僕は消えたかった。消えたかった。消えたかったはずなのに。
人生って、生きているって、つまらない。どうしようもなく、あいつらを殺したくなる。あいつらをだ。
その気持ちを踏み留めてくれた、クミちゃんへの僕の愛だった。
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