題名:電流スピナーに同乗した。
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
「さっ、ちみも、すまほないぶを、ぼうけんするにゃん。このでんりゅうすぴなーにのるにゃん」
りどるは、先に電流スピナー(図)に乗って僕を誘っていた。またもや、りどるが子ネコでなくて、別の人物のように見えた。きっと彼あるいは彼女は僕の脳内をコントロールして、僕に幻覚を夢見させている。
しかし、話し方は子ネコのりどるのままであった。それにいささか安心をした。僕はその幻覚に惑わされない。これはPixelの幻想だ。そうは思いつつも、そのかわゆさには、若干ながら、そう若干ながら、僕はときめいていた。
図 電流スピナー1)
「ほーっとしてるにゃん」
「……ぁは…、ところで、冒険ってどういうこと?」
「じんせいのぼうけんにゃん。それをして、じかんをもどさないことには、ちみは、いずれあんなふうになるにゃん」
そうして、りどるはスマホ画像の外部に見えるわたしを指した。よだれを垂らしてぐーすか寝ているわたしを指さした。指指して、ゆびさして、ゆびゆびして、りどるはスマホ内部から画像をピンチアウトし、わたしを拡大した。
恥ずかしいことに、その時、わたしは寝ながらぶっぅす~とした。幻覚で僕に夢見させているりどるの人物像がぶっぅす~な訳なく、それは間違いなくわたしの放屁だった。
「放屁した…」
わずかの隙間からスマホ内部へにおいが侵入してきた。そのスマホは、IP68 に準拠した防塵、防水性能を持っているにも関わらず、内部にもにおいが充満し始めた。その強烈なにおいに、りどるは再び子ネコの姿に戻りつつあった。においが増せば増すほど、僕の神経へのコントロールのタガが外れたかのように、子ネコに戻っていった。
「くせ、くっせー、にゃん」
りどるは顔の前に手を持ってきて、目と鼻の間を両手の甲でしきりにこすっていた。こうしてその姿を見ると、やっぱりりどるは、間違いなく子ネコだった。
「ほら、よくみてにゃん。くせっ、これがみらいのちみのすがた…。わかる? くっせーにゃん。はよ、じかんをもどさないと、たいへんなことになるにゃん。くくっせーにゃん」
その時、ようやくわかった。スマホ内部の僕は、やがてスマホ外部のわたしになる。僕はわたしで、わたしが僕だった。でも、今は時間を取り戻せば、イコールでなくなる。りどるは、僕にそう警告している。僕は慌てて、りどるが乗る電流スピナーに同乗した。
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