題名:時間を遡っている
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
どういう作用なのだか分からないが、電流スピナーに乗っていると時間を遡っているような気がした。りどるは、口笛を吹きながら楽しそうに、電流スピナーを運転し続けていた。
そういえば…、幼い頃に祖母から聞いた話が急に蘇った。
祖父はガス室で殺害されたということを。
祖母の父、僕の曾祖父にあたる人は、当時大日本帝国陸軍の少佐か何かかで、第二次世界大戦がはじまる前に、軍事関連でポーランドとドイツに訪問に行ったということだった。女学校で語学を学んでいた祖母は、少しばかり語学が堪能だったため、曾祖父に同席し、曾祖父とともにかの地へと旅立った。祖母の話から、それは確か祖母が17、18歳の頃だったように記憶している。そこで、出逢ったのが祖父だった。
彼は、スラブ系のユダヤ人だった。これも確かで、外交関係の仕事での祖母との出逢いだったはず。
曾祖父は大反対したものの祖母と祖父は熱烈な恋愛の末に結ばれ、僕の父、キザワ・ブロンスキー・イサクが産まれた。しかし、その後、情勢の雲行きが怪しくなり、祖母と曾祖父はやむなく日本に帰国した。祖母は、しばらく手紙で祖父とやり取りし、ミツオの成長を祖父に報告していた。が、ある時から祖父からの連絡が途絶えた。
終戦後に祖母は現地に向かった。祖父に逢うために、家族の反対を押し切って、父イサクを連れてポーランドを再訪した。祖母はそこに永住する覚悟で向かった。しかし、現地の人から聞いた話で、祖父はSS(ナチス親衛隊)に捉えられ、ビルケナウ収容所到着直後の選別で即刻ガス室に送られ、チクロンBで殺害されたとのことだった。
「ガス室に閉じこもる人生にはなりたくない」との一心で、反ユダヤ主義に抵抗していた祖父だが、イサクの成長を見る間もなく、彼は人生を終えた。
当時、祖父はまだ25歳だった。
その後、放心した状態で、祖母は日本に帰国したのだった。
祖母はよく僕にボロボロになっている一枚の写真を見せてくれた。祖母と並んで、優しそうな目を持つ祖父の姿がそこにあった。でも、僕は祖父のことは全く知らない。ただ、僕と目がよく似ている。そう祖母にはよく言われた記憶がなぜか今、鮮明に蘇っていた。僕自身が随分幼い頃だったため、すっかり頭から消えていた記憶だったはずが、なぜか今鮮明に見える。
写真の祖母の顔も今更ながらはっきりと思い出していた(図)。
図 祖母(のつもり)1)
1) https://www.pinterest.jp/pin/737745982708346958/ (閲覧2021.3.12)
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