題名:そのハニーはもうこの世にはない
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
ということは…。
「そうなの….私が変なおじさんです」
で、新型コロナウイルスにその笑いが封印され、もう二度とその本物の変なおじさんが見られなくなった。
もはやアフター・コロナとなった世相では、小説の形態も変化しないと行けないのだろうか。それはKindleのような電子的だけではなく、文体そのものものも含意している。
誰もが蜜なしなのだ。甘い甘いそのハニーはもうこの世にはない。文体もしかりだ。
「ハニー。ヒデーィキ、グッドモーニング」
ヒデアキとはどうも英語圏の人は言いにくいようで、僕はいつもヒデーィキと呼ばれていた。
その当時の毎朝、恋人のジェニファーはハグし、僕もハグした。キスも何度交わしたか。
甘いひとときだ。
僕たちの周りにブンブンと蜂が飛ぶぐらいに、その当時の僕たちは甘い芳香を放っていたに違いない。
僕にすれば、ジェニファーはその当時、異国に住む僕の心の港のような存在だった。
かつて住んでいたアメリカではハグし、ハグされ、そして毎週のように大なり小なりパーティが開催され、そこで、輝くばかりに光を放って踊っていたのがジェニファー・チャスティン。
ジェニファーは中国系アメリカ人だった。同じ東洋系の顔立ちに、僕はもちろん日本人だったが、互いに惹かれ、そしてすぐに結ばれた。
あの時のパーティには、ジェフもいたかどうかは定かではない。
1997年頃だったろうか、あれは。
ちょうどAmazo.comがNASDAQに上場する直前か直後だったろうか。
僕は当時Windows95の到来に胸をはせ、大学時代の友人であったジェニファーと同じ中国系のトニー・リンとともに、インター・アドベンチャーを立ち上げたばかりだった。そして、ジェフはインターネットの小売で先を走っていた先輩でもあった。初めてジェフと出会ったときのことは、今でも鮮明に覚えている。
「この人は、何かが全く違う」
と思った。そう思った時点で、僕はすでに凡人だったのだろう。
アメリカに来て一旗揚げる。そして僕はインターネット界の寵児になる。そう思い込み、そう願っていた。自慢じゃないが、スタンフォード大学でも主席に近い成績で卒業した。日本人だからと罵られるも、猛烈に勉強し、みんなもひと目置くようになり、他のアメリカ人には負けない。負けることはない。その確認に満ち溢れていた僕は、インターネットの登場で大きく目を見開いた。そして努力した。努力すれば才能は超えられる。そう信じていた自負が彼によって見事に崩れた。どうあがいても僕は彼(ジェフ)を超えることはできない。
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