題名:クリストファー・マッカンドレス氏の精神を辿って
報告者:ナンカイン
本記事は、この記事の続きです。
先の記事にて人生の通過儀礼を相転移として捉え、人が相転移するための臨界における外乱の受け止め方、すなわち、その個人の精神状態に委ねられたその個人の考えによって、人生の通過儀礼を意味のあるものとするか否かの境目となることについて報告した。ここでは、その一例として、クリストファー・マッカンドレス(Christopher Johnson McCandless)氏の精神状態の類推から検討したい。
クリストファー・マッカンドレス氏は、俳優でもあり、映画監督でもあるショーン・ペン氏によって映画「イントゥ・ザ・ワイルド」の主人公として登場したことから、すでに知っている方も多いかと思われる。この映画の基となるドキュメント小説は、ジョン・クラカワー氏の「荒野にて(原題:Into the Wild)」であることも映画を見た方ならご存知であろう。クリストファー・マッカンドレス氏は、1968年に生まれ、1992年の24歳の時にアラスカという地にて人生を終えた1)。その人生は「Into the Wild」にも記載されているが、恵まれた境遇で育ったにも関わらず、将来が有望視されているのも関わらず、それを投げ捨て、荒野の世界に魅入られ、1990年末からアメリカやカナダを旅した。その後に1992年5月にアラスカの荒野へ到達し、アラスカのデナリ国立公園の近くのトレイルに放置されたバス(63°52 '5.96 "N、149°46'8.39" Wにある通称マジック・バス)内で腐乱死体となって遺体が発見されたというものである。そのバスの前でマッカンドレス氏自身が撮影した最後の写真を図に示す。このセンセーショナルな出来事を辿るべく執筆・映像化されたのが、小説の「Into the Wild」であり、映画の「イントゥ・ザ・ワイルド」である。
図 クリストファー・マッカンドレス氏とバス2)
マッカンドレス氏が旅した1990年~1992年は、年齢で言えば22~24歳にあたり、先の記事に基づけば、身体と精神との成長のアンバランスさが生じやすい人生の通過儀礼の年代に当たる。このマッカンドレス氏のように、周りからの環境が恵まれているいないにも関わらず、この年代において人は、自分を探すべく旅を繰り返すことが少なくない。それは、自己の精神を巡る旅でもあり、人生の通過儀礼であるtransition(T:過渡)の期間でもある。この現象は、例えば、Appleの設立者であるスティーブ・ジョブズ氏にも顕著に見られ、ジョブズ氏はこの年代にサイケデリックドラックや瞑想に傾倒し、さらには、アタリの時代に導師を求めてインドまで旅をしている3)。ただし、ジョブズ氏の場合は、幸いなことにマッカンドレス氏のようにこの世代で人生を終えることなく、その後、大きく羽ばたいたことは言うまでもない。このことから、人生の通過儀礼としての過渡を、外乱(マッカンドレス氏の場合は、恵まれた環境に対する反逆かもしれない)を、その個人の精神にうまく取り込み(臨界状態を超え)、羽ばたく必要性がマッカンドレス氏の死からも学ぶことができる。
1) https://en.wikipedia.org/wiki/Christopher_McCandless (閲覧2017.6.30)
2) http://www.matavilela.com/2014/07/alexander-supertramp-un-extranjero-del.html (閲覧2017.6.30)
3) アイザックソン, ウォルター: スティーブ・ジョブズ Ⅰ. 講談社. 2011.
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