題名:いずれ肉は腐る。
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
抹消を望んでいても、結局、考えることは人との関係だったりする。だから、もう、それはうんざりなんだと思いつつ、そういう独りの状況に陥ると、結局は今まであった人とのやり取りをやっぱり考えている。
人は独りでは生きては行けない。なぜなんだ。”なぜ”なのだろうか。
永遠の解答を求めていた僕は、日が経つにつれて次第にその”なぜ”に気づきはじめた。
だから、なんだか腐敗臭がするのだ。腐敗臭が…だ。もしかして、僕が殺したシズコの遺体がどこかにあってそれが腐敗したのであろうか、と、僕は心配になりくまなく探した。二階も、押し入れも、風呂場もその遺骸の形跡はない。ということは、僕はシズコを遺棄していない。でも、相変わらず腐敗臭が家中に漂っていた。その時、ふと、冷蔵庫かと思えた。そういえば、冷蔵庫の電源をOFFにした、かもしれない。
僕は、慎重に冷蔵庫を覗いた。
冷蔵庫の中には、シズコのはっぽうしゅ「ザ・ブリュー」が2本と、「酒悦 福神漬木桶仕込み醤油使用 120g」しか入っていなかった。それは、シズコは、「カレーにはこの福神漬けじゃないとだめなの」と言っていた一品だった。瓶を取り出し、よく見てみると、封は開いてはいなかった。だから、腐敗臭は、冷蔵庫からではない。どちらも、封は開いてはいない。
もともと、普段からそれほどこの冷蔵庫には何も入れてはいない。だから、もしかして電源をOFFにしたことによる生ものの腐敗臭はここか…と思い、次に、冷凍庫を開けた。
その途端、腐敗臭が漂った。どうやら腐敗臭は冷凍庫の中からしていたようであった。でも、そこにあるのは、それ自体は、シズコの死体ではなかった。もしかして、ここに、シズコの腕が、足が、あるいは顔面が入っていたらどうするか…、という危惧もあったが、いささかほっとしていた。もし、ここで本当にシズコの顔があったら…どうしようか…。半ば、そんな緊張感が腐敗臭から漂っていた。だから、本当に、僕は、この時、ほっとした。そうだ、きっと、そうだ。
ぼきゅは、しじゅこを、ばきゅんと、ころしていない。
冷凍庫の中を詳しくチェックすると、そこには肉が入っていた。どうやらその肉が腐敗臭を漂わせていたようだった。パッケージには「豚バラ肉 300g」と書かれてあった。完全に腐っていた「豚バラ肉 300g」が、そこに鎮座していた。
電源を、冷蔵庫の電源をOFFすれば、ONにしない限りは、永遠の解凍となった肉は、「豚バラ肉 300g」は腐敗臭となってその様相をチェンジする。
いずれ、肉は、腐るんだ。冷凍庫がなければ、いずれ肉は腐る。
僕もこのままではいけない。このままずっとここに居るままだったら、僕という肉と体が腐る。そう直感した。僕がシズコを殺していなければ、僕はなんでこんなことになったのかを、明らかにしなければならない。そこで、結婚してからシズコとの歴史を振り返った。目が覚めたように、僕は、家中のありとあらゆる写真、データをひっくり返し、その歴史を反芻した。その時、気になったことがあった。
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