題名:まるで浮浪者
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
「いずれ肉は腐る。」かのように日々を過ごしていた僕は、何かに急き立てられるかのように、ありとあらゆる写真やデータを家探ししていた。そして、僕は妻シズコとの歴史をなぞっていた。その時、気になる写真が見つかった。それは、シズコの会社の慰安旅行の写真だった。確か、その年に入社した新人も引き連れての旅行だったはず。
シズコの会社は、比較的小さな広告代理店だった。だから、シズコは慰安旅行のたびに、帰ってきてはそれらの写真を見せては、その少人での会社の人の性格等についてよく語っていた覚えがある。この人は…こうなの、この人はね…こんな感じだったの…、ってな具合に。だから、写真の中の一部の人には、写真といえども、僕にはそれなりの親しみがあった。しかし、新人と思しき人には、僕にとっても面識がなく、シズコもそれほど語らなかった。だから、その中で、僕が、僕にとって面識がある人を見つけた時に、僕は、写真をじっと凝視し続けた。
いや見間違えかもしれない。虫メガネを持ってきて、もう一回見直した。
知っている顔の輪郭、愛らしい目元と口元。存在感のある耳。そして、凛と通った鼻筋。右目の涙袋の下にある特徴的なほくろ…。
(間違いない。これは、クミちゃん。クミちゃんだ)
そう、確信した。
「なんてこった。クミちゃんは、シズコの会社に勤めていたんだ」
僕は大きな独り言をつぶやいた。人から見ると、明らかにおかしいと思われる大声だったろうか。でも、僕には、そうなるだけの大きな発見だった。何か、何かの手がかりが、シズコとクミちゃんの間を結んでいる。その大きな接点が、ここで見つかった。
「彼女らは、つながっている」
僕は、そう確信した。
その後、僕は、同じ日付のシズコの慰安旅行らしき写真を探しに探した。シズコの写真が入っている箱をひっくり返した。確かに、アップではなかったが、クミちゃんらしき人物が何枚かの写真には写っているのが確認できた(間違いない。これは、クミちゃんだ)。
僕は記憶をたどり、その場所がどこだったのかを思い出そうとした。いくつかの写真をたよりに思い出そうとした。とある看板が見える。「湯の花まんじゅう」とある。それに見覚えがあった。ここは伊香保温泉…。
僕はすぐに伊香保温泉に向かう準備をした。バックに下着や写真のいくつかを放り込み、迷った挙句、チキンラーメンもバックの中に放り投げた。
シズコはそこに居る。そう確信し、僕は伊香保温泉に向かうために、自宅を出て地下鉄の駅に向かった。
数か月ぶりの外出だった。
駅構内を歩いているとじろじろと人に見られている視線を感じた。僕は何か変な格好でもしているのだろうか。飛び出してきたから当たり前か…。そう思い、トイレに向かって鏡を覗いて見ると、まるで浮浪者のような自分がそこに居た。髭が随分と伸び、格好もしわくちゃの背広のままで著しく汚かった。
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