題名:経験は時の知覚を歪める存在である。
報告者:ダレナン
本記事は、この記事の続きです。
先の記事では、人生の可能性と色の混色との関係について検討した。そして、それらの成果として、経験とは、時の知覚を歪める恐ろしい存在であることが最終ポイントとして、浮かび上がった。そこで、ここでは、その存在を明らかにするために、経験は時の知覚をどのように歪めるのかについて思索したい。
まず時の知覚について、ヒトがそれを脳内で知覚するのは2種類存在する。塚原仲晃博士(*)によれば古代からギリシア人は時に関する2つの言葉を持っており、ひとつはクロノス(時の量的側面)、もうひとつはカイロス(時の質的側面)である1)。クロノスは物理的に計測される物理的な時間を計るメカニズムであり、脳内の神経回路の異なった位置に興奮現象が移動することでなされる1)。例えば、小脳皮質の下に埋められた神経細胞の群(核)と脳幹部の神経核との間に形成される反響回路のようなもので、このループ・タイムは四ミリ秒であることから、四ミリ秒毎の物理的な発振器ともいえる1)。この発振のタイミングを基に、脳は時間を計れる。一方、カイロスは心理的な時間に相当し、それは経験の源で、記憶の根底にある脳の可塑性(神経系であれば、外界の刺激などによって常に機能的、構造的な変化を起こしていること2))との関係が深い1)。すなわち、少年期には成人よりも可塑性が著しく大きく、多くの出来事が記憶に残り易いのに反して、老年期では可塑性が低く、出来事を多く経験しても、すぐに消え去って脳の痕跡となって残ることが少なく、言い換えると、老年期では、記憶による時間軸が著しく短縮している可能性を、塚原博士は指摘している1)。そして、それらの知見を基に、脳の可塑性と時間の認識について図を提示している。それが図になる。最下にある図の物理的時間は、時空間によって規定されるために、年齢とは関係なく時を刻む。そのため、重力によって極度に歪んではいない場合での一般的な地上での時間である。図の中間にある心理的時間は、図の最上にある脳の可塑性によって影響され、年齢のおおよそ16歳ぐらいから時の知覚が減少し、物理的時間よりも短く感じていることが読みとれる。
図 脳の可塑性と時間の認識1)
これについては、未だに検証されていないが、もし塚原博士が生きていれば、重力による時空間の歪みを発見したアルバート・アインシュタイン博士の特殊相対性理論と同じく、経験の源でもある記憶と脳の可塑性の関係によって歪められているであろう、時の知覚について、もしかすると解明されていたかもしれない。
*: 塚原仲晃博士は、飛行機による事故としてある年代以上の人はよく記憶しているであろう1985年の日航ジャンボ123便の御巣鷹山への激突の際に乗り合わせた被害者でもあり、脳の可塑性による研究では、当時すでに世界的な研究者でもあった。もし博士が存命していれば、日本の脳研究は、飛躍的に進んだであろう偉大な人でもある。
1)塚原仲晃: 脳の可塑性と記憶. 岩波書店. 2010.
2) https://kotobank.jp/word/神経の可塑性-185307 (閲覧2018.6.21)
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