題名:こころの中で、つぶやいた
報告者:ダレナン
本物語は、この物語の続きです。
「晴美さん。鳴り石の浜に着いたよ。随分と雨降ってるけど、いいの?」
晴美:「うん。別に、いい。でも、カツオくんもいっしょに浜まで来てくれるかな?」
雨模様なのに、車内にはあいにく傘は一本しかない。これじゃ、明らかに相合傘じゃないか。でも、仕方がない。今は、晴美さんからあの香りがそれほどしていない。大丈夫。きっと大丈夫。相合傘でも。
「傘一本で、相合傘になるけど、いい?」
「うん、それでいい」
それでも、軽トラの車外に出ると、車内の魚の匂いがなくなったせいなのか、やはり晴美さんからの香りに翻弄されそうになった。幾分、雨のおかげで幾分なりとも、その香りは弱まっているものの、二人で傘に入れば、僕自身の感情がどうなるか、すでに分かっていた。こころの中で、(琉花、ごめん)、とつぶやいた。どうしようもない。晴美さんからのその香りに対して、自分の感情のアンコントロール性が目覚めていた…。
「晴美さん、傘の中に入って…。それじゃ、雨に濡れるよ」
晴美さんが傘の中に入ると、僕はくらくらした。もうだめだ。もうだめだー。(るかー)、そう思った時、晴美さんの手は、僕の傘の握っている部分をいっしょに握った。「カツオくん、わたしも傘持つよ…」。その瞬間、ふわーッとして、体の中の力が抜けた。自分の中の、血液がぐるぐると循環している。でも、不思議と、今度は、晴美さんからの香りが気にならなくなった。心臓からの循環が、血液の循環が、なぜか、ときめきがなくなるかのように静かに収まった。直接、触れたのに、まったくどきどきしていない。
琉花の時と真逆だった。琉花とZX-10Rにいっしょに乗った時、琉花に僕の背中を抱かれ、琉花の手に触れた時、エンジンの鼓動か、それとも僕の鼓動かと判別出来なくなるぐらいに、僕は戸惑った。どうしようもないくらいに、琉花にときめいた。でも今は、明らかにそれと逆であった。
For Tedaのように、それはÓlafur Arnaldsのように(図)、規則正しく鼓動している。僕の胸は、晴美さんに対してはときめいてはいない。琉花と、晴美さんに対する気持ちは、まったく違う。そう確信できた。
図 For Teda1)
1) https://www.youtube.com/watch?v=nWs5WM5b5zg (閲覧2020.2.9)
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