地底たる謎の研究室

3000km深から愛をこめて

”なぞかけ(仮)”



「宇宙コロニー( Off-world colonies )での新しい生活が貴方を待っています。チャンスと冒険に満ちた黄金の土地に、再び巡ってきた好運。」 “A new life awaits you in the Off-world colonies. The chance to begin again in a golden land of opportunity and adventure.”

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題名:”なぞかけ(仮)”
報告者:ダレナン

 本物語は、この物語の続きです。

 SIM交換すると僕はすっかりと見違えるように自らを取り戻し、あのかつての僕の自分に時間が戻った気がしていた。父と母がこの世からいなくなった後、祖母トミヨと子ネコのリトルの存在が、僕を生かしてくれたその人生が、この世からすべて亡くなったことに対して、あの時の真っ黒な闇雲が心の内面に覆いかぶさり、もう二度と失いたくはないと感じていたあの日々を、僕は二度と振り返りはしない。僕の中の何かもSIM交換と一緒に交換されていた。今思えば、それは「わたしは僕に交換された。」に違いなかった。
 祖母トミヨの声が耳元に聞こえる。同時に僕の中から祖父ヤナチェクの声も響いていた。それは単なる響きではなく、リアルな声の現像となって言霊が頭の中に写像し、僕の人格にシャドーしていた。2人は僕の背後にいる。
 それだけでなく、スマホ自体もSIM交換したおかげなのだろうか。不思議と著しく充電が減ることがなくなり、その元の機能が復活したかのようだった。

 SIM交換前に聞いたポーランドのピアニスト、ヤーヌシュ・オレイニチャクによるショパンの「Nocturne in C-Sharp Minor, B. 49」を堪能しながら、同時に検索で見つけた子ネコの画像に、僕は彼を”なぞかけ(仮)”(図)と名付けた。彼は黒いメガネが謎めいて、そして僕に何かを語り掛けていたように思えてならなかった。



図 ”なぞかけ(仮)”1)

 画像をダウンロードし、僕は彼をスマホのホーム画面の壁紙にした。同じ子ネコでも確かに彼は亡くなったリトルとは違っている。少なくともリトルはメスだ。でも、オスに見える、だからオスだろうその黒メガネの子ネコ”なぞかけ(仮)”は、黒メガネを外せば、それでもリトルの面影になんとなく似ている。この画像を気に入ったのも、僕には十分すぎるほど理解できた。彼は、リトルの、黄泉がえりなんだ、ってことを。
「”なぞかけ(仮)”。今からポーランドに向かうよ」
(にゃおーん)
 ふとネコの声が聞こえる方向を振り返ると、電光掲示板に羽田発ワルシャワ行きの案内が出ていた。それはちょうど僕が乗る飛行機だった。
 急いで搭乗手続きを済ませ、僕はロビーで搭乗のアナウンスを待っていた。まだ、ここは、ヨーロッパじゃない。だから、スマホのアンテナは、No Signalを指している。開通はかの地に着いてから、電源を入れれば、アンテナがピクトするはず。僕は、ホーム画面の”なぞかけ(仮)”に「それまでヨロシク」と伝え、そこで一端電源をOFFした

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